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Scope3の算定方法|初心者向けに6ステップで解説
Scope3の算定を初めて任されると、「15カテゴリーを全部、最初から正確に計算しなければならない」と考えがちです。しかし、社内外のデータがそろっていない初年度から、すべてを同じ精度で算定するのは現実的ではありません。
最初に必要なのは、算定の目的と対象範囲を決め、15カテゴリーに自社の活動を割り当て、取得できる活動量から全体像をつかむことです。そのうえで、排出量が大きい項目、削減へ働きかけやすい項目、データ精度を上げる意味が大きい項目から詳しく見ていきます。
初年度の基本方針 全体を漏れなく粗く把握し、重要項目を選んで深くする。算定に使った境界、活動量、排出原単位、仮定、除外理由を台帳へ残せば、翌年度に比較・改善できるScope3になります。
Scope3は何を数えるのか
企業の温室効果ガス排出量は、Scope1、Scope2、Scope3に分けて捉えます。Scope1は、自社が管理する燃料の燃焼や工業プロセスなどから生じる直接排出です。Scope2は、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出を指します。
Scope3は、それらを除いた、自社の事業活動に関連する他社の排出です。購入した原材料を製造するときの排出、委託した輸送、従業員の出張、販売した製品の使用・廃棄など、企業の上流と下流に広がります。自社の敷地内だけを調べても、Scope3の全体像は把握できません。
Scope3と製品CFPは単位が違う
Scope3は、原則として企業や企業グループの一定期間におけるバリューチェーン排出量を扱います。一方、カーボンフットプリント(CFP)は、特定の製品・サービスを対象に、原材料調達から製造、流通、使用、廃棄などのライフサイクルで排出量を捉える考え方です。
たとえば、ある年度に購入した鋼材が企業全体のScope3カテゴリー1に含まれる場合でも、特定製品のCFPでは、その製品へ投入した鋼材分を製品単位で割り当てます。関係は深いものの、対象、集計単位、利用目的が同じではありません。組織のScope3を作るのか、製品CFPを作るのかを最初に区別すると、途中でデータの粒度が混ざりにくくなります。
ステップ1:算定目的と対象境界を決める
最初の会議で決めるのは計算式ではなく、「何の判断に使う数値か」です。顧客から求められた回答、社内の削減計画、情報開示、調達方針の見直しでは、必要な精度や締め切りが異なります。
削減余地の大きい領域を探すことが目的なら、初年度は広い範囲を概算し、排出量の偏りを見る方法が合います。外部開示へ使う場合は、適用する基準、対象年度、開示範囲、保証の要否を先に確認しなければなりません。取引先の指定様式へ回答する場合は、その様式が求める組織範囲や算定法が、自社の通常集計と一致するかも見ます。
境界は四つに分けて記録する
算定対象を曖昧にしたまま集計を始めると、拠点や子会社の追加・除外が途中で起き、集めたデータをやり直すことになります。少なくとも次の四点を文書化します。
- 組織境界:対象となる会社、子会社、事業所、共同事業、海外拠点
- 時間的境界:年度、暦年、決算期間など、活動量を切り取る期間
- 活動境界:15カテゴリーのうち該当する活動と、限定・除外する活動
- 報告単位:総排出量、売上高当たり、生産量当たりなど、経年比較に使う表示
組織境界には、出資比率に応じて排出量を連結する考え方と、財務・経営上の支配力に基づく考え方があります。どちらを使うかは、既存のScope1・2や外部報告との整合も見ながら決めます。担当者だけで決定せず、経理、サステナビリティ、経営企画など、連結範囲を管理する部門と合わせる方が安全です。
ステップ2:15カテゴリーを自社の活動へ割り当てる
Scope3の15カテゴリーは、上流の1〜8と下流の9〜15に分かれます。表の名称だけを見て該当・非該当を決めるのではなく、自社の購買、物流、資産、販売の流れを起点に割り当てます。
| 区分 | カテゴリー | 主な活動例 | データを持つことが多い部門 |
|---|---|---|---|
| 上流 | 1.購入した製品・サービス | 原材料、仕入商品、外注、間接材、サービス | 購買、調達、経理 |
| 上流 | 2.資本財 | 設備、建物、機械などの取得 | 設備、経理、固定資産管理 |
| 上流 | 3.燃料・エネルギー関連活動 | 購入燃料や電力の上流工程 | 総務、施設、エネルギー管理 |
| 上流 | 4.輸送・配送(上流) | 調達物流、自社が費用負担する物流 | 物流、購買 |
| 上流 | 5.事業から出る廃棄物 | 委託した廃棄物の輸送・処理 | 環境、安全、工場管理 |
| 上流 | 6.出張 | 鉄道、航空、宿泊、レンタカー等 | 総務、人事、経理 |
| 上流 | 7.雇用者の通勤 | 従業員の通勤 | 人事、総務 |
| 上流 | 8.リース資産(上流) | 借りて使用する資産の運用 | 総務、経理 |
| 下流 | 9.輸送・配送(下流) | 自社が費用負担しない販売後の物流等 | 営業、物流 |
| 下流 | 10.販売した製品の加工 | 販売した中間製品の加工 | 営業、技術 |
| 下流 | 11.販売した製品の使用 | 販売製品の使用に伴う排出 | 設計、技術、営業 |
| 下流 | 12.販売した製品の廃棄 | 販売製品の廃棄処理 | 設計、環境 |
| 下流 | 13.リース資産(下流) | 貸し出した資産の運用 | 営業、経理 |
| 下流 | 14.フランチャイズ | 加盟店のScope1・2相当 | 事業管理 |
| 下流 | 15.投資 | 投資先に関連する排出 | 財務、経営企画 |

製造業であっても、すべてのカテゴリーが同じ大きさになるわけではありません。完成品を販売する会社、中間材を販売する会社、リース事業を持つ会社では、下流の捉え方が変わります。カテゴリ9の輸送とカテゴリ4の輸送は、物の流れだけでなく、取引条件や費用負担も見ないと誤分類が起こります。
「該当なし」と「未算定」を分ける
該当する活動が本当にない状態と、活動はあるがデータ不足でまだ計算できない状態は別です。前者は「該当なし」、後者は「未算定」または「暫定値」として残します。未算定をゼロに置き換えると、合計値が小さく見え、翌年度の増減理由も説明できません。
範囲を限定する場合は、何を、なぜ、どの程度外したかを記録します。影響が小さいと判断したなら、その判断に使った金額、数量、活動件数などの概算根拠を添えます。データ収集が難しい場合も、永久に除外するのか、翌年度に取得方法を作るのかで意味が変わります。
ステップ3:活動量を集めるための台帳を作る
Scope3の集計では、データそのものより先に「どの部門が何を持っているか」を見つける作業が必要です。購買金額は会計システム、重量は購買明細やミルシート、輸送距離は運送記録、廃棄物量はマニフェスト、人員数は人事データというように、カテゴリーごとに所在が分かれています。
各部門へ一斉に「CO₂のデータをください」と依頼しても、必要な項目は伝わりません。活動台帳を用意し、データの名称、単位、期間、粒度を指定して依頼します。
活動台帳へ残す列
- カテゴリー番号と活動名
- 対象会社・拠点・部門
- 対象期間
- 活動量の種類と単位
- データの所有部門・抽出担当者
- 元資料・システム名・抽出条件
- 使用する算定方法
- 排出原単位の名称、版、年、地域、単位
- 計算式と単位換算
- 暫定値、推計、欠損の範囲
- 除外・限定の理由
- 前年からの変更点
- 確認者と確認日
この台帳があれば、数値が変わったときに「活動量が増えたのか」「排出原単位が更新されたのか」「境界を広げたのか」を分けられます。合計値だけを表計算へ保存すると、翌年度に同じ計算を再現できません。
粒度は目的に合わせる
購買データを例にすると、全社の勘定科目別金額は早く集められますが、削減策へ結び付けにくい粒度です。仕入先別、品目群別、材質別、重量別に分けるほど原因は見えやすくなりますが、データ整備の負担は増えます。
初年度は会計データで全体を見て、排出量が大きい品目群だけ購買明細や重量へ進む方法があります。全カテゴリーへ同じ粒度を求めるより、意思決定に必要な項目へ時間を配分できます。
ステップ4:算定方法と排出原単位を選ぶ
Scope3の多くは、活動量に排出原単位を掛けて算定します。ただし、同じカテゴリーでも活動量の持ち方によって方法が変わります。
| 方法 | 活動量の例 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 支出額ベース | 購入金額、委託費 | 初年度のスクリーニング、物量がない項目 | 価格変動の影響を受け、個別の削減努力を捉えにくい |
| 物量ベース | 重量、個数、距離、燃料量、廃棄物量 | 主要品目や物流を実態に近づけたいとき | 単位、対象工程、地域、材質を原単位と合わせる |
| 仕入先固有データ | 製品CFP、供給者別排出原単位 | 重点調達品で供給者の削減を反映したいとき | 境界、算定年、配分、検証、対象製品との対応を確認する |
原単位は「近い数字」ではなく条件で選ぶ
排出原単位を選ぶときは、品目名の似ている行を選ぶだけでは不十分です。活動量の単位が円なのかkgなのか、原単位がどの工程までを含むのか、国内平均か海外データか、何年のデータかを照合します。
たとえば、鋼材の購入重量へ重量当たりの原単位を掛ける場合、対象が粗鋼、鋼板、鋼管などのどの製品段階か、加工や輸送を含むかで結果が変わります。購入金額へ金額当たりの原単位を使う計算と、重量へ重量当たりの原単位を使う計算を、理由なく同じ品目内で混ぜるのも避けます。
環境省の排出原単位データベースは改訂されるため、ファイル名や版を台帳へ残します。前年との比較では、活動量の変化と原単位改訂の影響を分けて説明できるようにします。
一次データは受け取れば使えるとは限らない
仕入先から「CO₂データ」を受け取っても、それが組織全体の排出量なのか、特定製品のCFPなのか、工場平均の原単位なのかで用途が違います。対象製品、機能単位、算定範囲、対象期間、配分方法、検証状況を確認し、自社の活動量と対応するかを見ます。
精度の高そうな数字へ置き換えることが目的ではありません。自社が説明したい対象と、提供データの境界が合っていることが先です。
ステップ5:初年度は概算し、重点項目を精緻化する
初年度の目標は、全体の排出構造を見つけることです。まず入手可能なデータで広く概算し、精緻化する項目を選びます。優先順位は排出量の大きさだけで決めません。
次の四つを並べると、実務に合った順番になります。
- 排出量または支出・物量の規模
- 調達変更、設計変更、物流改善などによる削減余地
- 自社が取引先や仕様へ及ぼせる影響力
- データの不確かさと、精緻化したときの意思決定価値
排出量が大きくても、短期に働きかけられない項目があります。反対に、中規模でも、仕様や発注方法を変えれば削減へつながる項目もあります。排出量、実行可能性、データ品質を一枚の表で評価すると、単なる上位順よりも行動へ移しやすくなります。
鋼材購入を段階的に詳しくする例
初年度は、会計上の購入金額と金額当たり原単位で鋼材購入全体を概算する方法があります。ホットスポットと分かったら、品種別の重量、仕入先、規格、加工の有無へ分解します。さらに、主要な仕入先から対象範囲の明確な製品CFPや供給者固有データを得られる場合は、その利用条件を確認して置き換えます。
この順序なら、全仕入先へ同時に細かな回答を求めずに済みます。一次データを依頼する対象と、必要な項目を絞れるため、調達先の負担も抑えられます。
仮定は隠さず管理する
重量がないため金額で推計した、輸送距離は代表ルートを使った、従業員アンケートの未回答分を補正した、といった仮定は失敗ではありません。重要なのは、仮定の範囲と計算方法を残し、結果を使う人が限界を理解できる状態にすることです。
「暫定」という一語だけでは、何が不確かなのか分かりません。対象件数のうち推計した割合、使用した代表値、次回取得したい実測データまで書くと、翌年度の改善計画になります。
ステップ6:検算・承認・再計算ルールを決める
Scope3は複数部門のデータを合算するため、計算式が正しくても集計ミスが起こります。提出前には、カテゴリー別の担当者とは別の確認者が、少なくとも次を見ます。
- 活動量と排出原単位の単位が対応しているか
- kg、t、円、千円、km、t-kmなどの換算が正しいか
- 同じ活動を二つのカテゴリーへ重複計上していないか
- Scope1・2へ含めた活動をScope3へ再計上していないか
- 対象期間外の購買・輸送・廃棄が混ざっていないか
- 前年比の大きな変動を、活動量・原単位・境界・方法のどれで説明できるか
- 合計値とカテゴリー別明細、元データの集計値が一致するか
確認後は、算定責任者、データ提供部門、承認者を記録します。外部へ出す数値と社内分析用の暫定値が混ざらないよう、版番号と状態も付けます。
基準年を再計算する条件を先に決める
会社の買収・売却、組織境界の変更、重要な算定方法の変更、過年度の重大な誤りが見つかったときは、単純な前年比較ができなくなることがあります。どの変更が起きたら過年度値を再計算するか、社内ルールを決めておきます。
再計算のしきい値は、採用する開示基準や社内方針によって異なります。記事上で一律の数値を置くのではなく、自社が使う基準と承認手続きに合わせます。再計算しない変更も、比較への影響を注記すれば、数字の連続性を説明できます。
初心者がつまずきやすい6つのポイント
1.いきなり排出原単位を探す
目的と境界が未確定のまま原単位を探すと、集めた数字が対象外になることがあります。先に対象会社、期間、カテゴリー、利用目的を一枚にします。
2.15カテゴリーを会計科目だけで分ける
会計科目は活動を探す入口になりますが、物流の費用負担やリース資産の扱いまでは示さない場合があります。購買・物流・資産の実態と照合します。
3.未取得をゼロにする
未取得と排出ゼロは意味が違います。欠損範囲を明示し、暫定集計では「取得済み範囲」を併記します。
4.精度の違うデータを無説明で混ぜる
一部の仕入先だけ製品CFP、残りを支出額で算定すること自体はあり得ます。ただし、どこに何を使ったかを示さなければ、比較や更新ができません。
5.合計値だけを保存する
排出原単位の版や活動量の抽出条件が残っていないと、翌年の担当者は同じ数字を再現できません。明細と算定根拠を一体で保管します。
6.算定完了をゴールにする
Scope3は、削減の優先順位を決めるための情報です。数字を作った後に、調達、設計、物流、営業の誰が何を変えられるかまで接続して初めて、管理に使えます。
算定結果を削減行動へつなげる
カテゴリー別の合計を出したら、品目、仕入先、工程、物流ルートなど、実際に変更できる単位へ掘り下げます。カテゴリー1が大きい企業なら、主要原材料の物量と供給者データを優先し、低炭素素材、仕様の見直し、歩留まり改善などを検討します。カテゴリー4が大きければ、輸送距離、積載率、輸送モード、分納回数を見ます。
削減策を比較するときは、排出量だけでなく、品質、供給安定性、納期、コスト、必要な証憑を同時に確認します。低い排出原単位だけを理由に材料を切り替えると、規格、加工、調達量が合わず、現場で採用できない場合があります。
西日本鋼管株式会社のCFP事業では、原材料調達から物流、部材・加工・完成品までのCO₂排出量の見える化と、低炭素素材を含む改善の考え方を案内しています。自社の算定境界と実際の調達条件を一緒に見たい場合の参考にできます。
まとめ
Scope3算定は、活動量へ排出原単位を掛けるだけの作業ではありません。目的と境界を決め、15カテゴリーを自社の活動へ割り当て、データの所在を台帳化し、用途に合う算定法を選びます。初年度は広く概算し、排出量、削減余地、影響力、データ品質から重点項目を決めると、限られた時間を有効に使えます。
翌年度も比較できるよう、原単位の版、仮定、欠損、除外理由、承認履歴、再計算ルールまで残すことが大切です。数字の精度を一度に完成させるのではなく、意思決定に使う順に高めていくことが、継続できるScope3管理につながります。