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鋼材と削減証憑を背景にグリーンスチール Scope3へ反映する条件と示すメインビジュアル

グリーンスチールはScope3削減にどう関係する?調達担当者向け

2026.09.21
グリーンスチール・GX

取引先から「グリーンスチールへ切り替えれば、Scope3を減らせます」と提案されたとき、調達担当者は何を確認すればよいのでしょうか。低炭素な鋼材を選ぶことは重要ですが、商品名や「CO₂削減」という表示だけで、自社のScope3カテゴリー1へ直ちに削減を反映できるとは限りません。

自社の算定へ使うには、どの製品を対象に、どの範囲の排出を、何と比べて、どれだけ減らした情報なのかが必要です。さらに、削減実績を特定の製品へ割り当てる仕組みを使う場合は、購入数量との対応や二重計上防止、情報が次の顧客へ伝わる条件も確認します。

この記事では、グリーンスチールとScope3カテゴリー1の接点を、調達後に受け取るデータと証憑から説明します。一般的な定義や購入前のチェックリストを繰り返すのではなく、「受け取った情報を自社の算定へどうつなぐか」に焦点を当てます。

グリーンスチールの調達はカテゴリー1削減につながり得る

製造業や建設業が鋼材を購入すると、その鋼材の原料調達や製造に伴う上流排出は、一般にScope3カテゴリー1の対象候補になります。購入する鋼材の排出原単位が下がり、購入量や算定境界など他の条件が同じなら、カテゴリー1の算定値も下がる方向に働きます。

しかし、実務では「グリーンスチール」という名称だけから排出原単位を決められません。グリーンスチールには、低排出な製造経路の製品、製品CFPが従来品より低い製品、企業が実施した削減実績を一定のルールで製品へ割り当てたものなど、異なる情報の表し方があります。自社が採用しているScope3算定方法と、供給者が提供する情報の種類が合っているかを確認する必要があります。

例えば、自社が鋼材重量に業界平均の排出原単位を乗じている場合、グリーンスチールを購入しても、算定表の原単位を変更しなければScope3の数値は変わりません。反対に、供給者固有の製品データへ置き換える場合は、基準年と比較年で境界がそろっているか、対象製品に対応しているかを確かめなければ、見かけの削減になる恐れがあります。

つまり、調達による実際の変化と、算定へ反映できる変化は別の確認が必要です。調達部門は製品と契約条件を確認し、環境部門はデータの算定条件を確認します。この二つを一枚の管理表で結ぶと、環境価値を買ったのに報告へ使えない、あるいは数値へ反映したが根拠を説明できないという行き違いを防げます。

「製品CFP」「企業の削減」「割り当てた削減価値」を分ける

仕入先から受け取る資料には、似た言葉でも役割が違う情報があります。少なくとも次の三つを分けて読みます。

製品CFP、企業全体の削減、割り当てた削減価値をScope3へ反映するときの違い
図:受領情報別のScope3反映判断

製品CFPまたは製品別排出原単位

製品CFPは、定めたライフサイクルの範囲で製品一単位当たりの温室効果ガス排出量を示す情報です。鋼材であれば、1トン当たりなどの機能単位で示される場合があります。自社の購入重量と対応し、算定境界もカテゴリー1の目的に合えば、サプライヤー固有法の入力データとして検討できます。

確認したいのは、対象製品・製造拠点、データ年、機能単位、含まれる工程、配分方法、利用した基準、検証の有無です。「工場出荷まで」と「自社納入まで」では輸送の扱いが違います。また、同じ製品名でも製造拠点や製造経路が異なる可能性があるため、発注したロットとの対応を確認します。

企業・設備全体の削減実績

鉄鋼メーカーが設備改善、燃料転換、再生可能エネルギー利用等により、企業または製造拠点全体で排出を削減した実績です。企業の脱炭素努力を評価する重要な情報ですが、その総削減量が、自社の購入製品一単位当たりの排出原単位へそのまま置き換えられるとは限りません。

企業全体の排出量や削減目標と、特定製品の排出量は算定単位が違います。自社のScope3へ数値を反映するなら、総量のうち何が対象製品へ帰属し、購入数量にどう対応するかが必要です。企業の取り組み紹介は調達評価に使い、製品別算定には別のデータを使うという分担もあり得ます。

製品へ割り当てられた削減価値

鉄鋼製造全体で生じた削減実績を、定めたルールにより特定の製品へ割り当て、顧客へ伝える仕組みがあります。物理的にその製品だけを別製造したことを意味するのではなく、削減実績の環境価値を管理し、製品に対応させる考え方です。

この情報を扱うときは、割り当て可能な削減量を超えていないか、同じ削減が複数製品や顧客へ重ねて使われていないか、誰がどの購入へ使ったかを追えるかが重要です。日本鉄鋼連盟のグリーンスチールガイドラインは、削減実績の管理、割当て、二重計上防止、顧客・次の顧客への情報伝達を扱っています。

製品CFPと割り当てられた削減価値は、どちらかが常に正しいという関係ではありません。目的が製品の物理的な排出強度の比較なのか、企業の削減投資を需要側から支える調達なのかで、見る情報が変わります。自社の開示方針や顧客回答でどの表現が認められるかも確認します。

Scope3へ反映する前に確認したい7項目

証明書やデータシートを受け取ったら、数値を算定表へ転記する前に次の項目を確認します。調達前の一般的な選定条件ではなく、Scope3へ反映できるかを決めるための確認です。

グリーンスチールの証憑で確認する対象製品・基準・境界・帰属・期間
図:証憑から確認する5つの条件

1.対象製品と購入実績が一致するか

資料の製品名、規格、製造拠点、対象期間、数量が、自社の発注・納入実績と対応するかを確認します。一つの包括証明を複数ロットへ使う場合は、対象数量の上限と割当て単位を確認します。発注番号、納品番号、証明番号を管理表で結ぶと追跡しやすくなります。

2.数値の種類は何か

受け取った値が、製品一単位当たりの総排出量、基準製品からの削減量、企業全体の削減率、割り当てられた削減価値のどれかを確認します。例えば「30%削減」という表示だけでは、何を基準にした30%か、購入重量へどう使うかが分かりません。単位と計算式まで取得します。

3.算定境界はどこまでか

原材料採取から製造拠点出荷までなのか、自社への輸送まで含むのか、加工工程を含むのかを確認します。自社の既存原単位と境界が違う場合、単純な差し替えはできません。足りない工程を補う、余分な工程を別管理する、比較不能として注記するなどの処理が必要です。

4.基準と比較条件は何か

削減量を示す場合、基準年、基準となる製造方法・製品、算定ルール、基準値の更新条件を確認します。基準が毎年変わると、前年との削減比較が難しくなります。自社の基準年算定に使った原単位と、新しいデータの基準が異なる場合は、同じ条件で再計算できるかを検討します。

5.削減量は製品へどう帰属するか

物理的な製品CFPなのか、削減実績の割当てなのかを明確にします。割当ての場合は、割当てルール、発行・償却の管理、対象数量、移転可能性、次の顧客へ情報を伝える条件を確認します。「低炭素」という言葉から製法や配分方法を推測しません。

6.二重計上を防ぐ管理があるか

同じ削減実績が、メーカーの目標達成、複数の製品、複数の顧客で重複して主張されない管理が必要です。証明番号、割当て量、発行日、購入者、使用状態が追えるかを確認します。自社内でも、同じ証明を複数事業部のScope3や複数製品のCFPへ重ねて使わないよう、使用先を記録します。

7.自社の報告目的で使えるか

経営管理、顧客回答、製品CFP、サステナビリティ開示、削減目標の進捗管理では、必要なデータ品質が異なります。社内の参考値として使える情報が、外部保証を伴う開示にも使えるとは限りません。利用目的、適用する基準、保証担当者の判断を先に確認します。

調達からScope3反映までの5段階

情報を受け取った後の処理を標準化すると、商品ごとに判断がぶれにくくなります。

段階1:従来データで基準を固定する

切替前の鋼材について、購入重量、使用原単位、対象境界、データ年、算定方法を保存します。基準がなければ、切替後の数値が下がっても、購入量の変化か、原単位の変更かを分けられません。

基準年に平均原単位を使い、比較年にサプライヤー固有データへ変える場合は、方法変更の影響を説明します。可能であれば比較年を旧方法でも計算し、調達量の変化とデータ変更の差を切り分けます。

段階2:発注条件へデータ要件を入れる

見積依頼や仕様確認で、製品仕様だけでなく、必要な環境情報を明示します。対象製品、機能単位、境界、データ年、証明書、数量との対応を依頼します。後から「Scope3に使える証明をください」と求めるより、供給可否と費用を含めて比較できます。

ただし、全仕入先へ一律に最大限の資料を求めると負担が増えます。排出量が大きい材料、削減目標へ直結する材料、顧客から回答を求められる材料を優先します。初回は一覧データ、重点品目は詳細証明という段階設計が現実的です。

段階3:証憑と納入実績をひも付ける

証明書を共有フォルダへ保存するだけでは、どの購入へ使ったかが分からなくなります。発注番号、納品日、数量、製品コード、証明番号、対象期間を台帳で結びます。分納や複数工場からの供給がある場合は、対象数量を超えて割り当てないよう残量を管理します。

調達担当者が受領し、環境担当者が算定条件を確認する二段階チェックにすると、製品違いと計算条件違いを分けて発見できます。疑問点は「証明書が不十分」とまとめず、境界不明、単位不明、数量未対応など具体的に仕入先へ返します。

段階4:算定表へ反映し、差分を説明する

カテゴリー1の算定表では、従来原単位、新原単位または削減量、適用数量、反映方法、証憑IDを保持します。割り当てた削減価値を扱う場合は、総排出量から単純に差し引くのか、調整後原単位として扱うのかを、採用するルールに沿って統一します。

数値が下がったら、購入量減少、製品変更、供給者改善、削減価値の割当て、算定方法変更を分けて説明します。「グリーンスチール購入で何トン削減」と示すなら、対象数量、基準、計算式、期間を合わせて残します。

段階5:利用先と主張を管理する

算定結果を社内目標、顧客回答、製品CFP、外部開示へ使うときは、利用先ごとに表現を確認します。物理排出量が下がったのか、削減価値を配分したのかを、読者が誤解しない言葉で示します。

証憑に有効期間や伝達条件がある場合は、次工程の顧客へそのまま渡せるかを確認します。加工や商流を経た後の製品名・数量との対応も必要です。鋼材を切断・加工して複数製品へ使うなら、配分方法と残量を記録します。

3つのケースで反映可否を考える

ケース受け取った情報Scope3への扱い追加確認
A対象鋼材1トン当たりの製品CFP、境界・年度・検証情報あり購入重量へ対応させる候補自社既存境界、対象ロット、輸送の扱い
Bメーカー全体のCO₂削減率のみ調達評価には使えるが、製品原単位への直接置換は保留製品への帰属、単位、境界、数量対応
C削減実績を購入数量へ割り当てた証明、管理番号あり採用ルールに合えば削減価値として反映候補二重計上防止、基準、利用・伝達条件

ケースAでも、製品CFPの境界が自社算定と合わなければ調整が必要です。精緻な資料があることと、そのまま使えることは同じではありません。比較可能な形へそろえる作業を見込みます。

ケースBは、仕入先選定やエンゲージメント評価には有用です。製造拠点全体の改善や将来目標を確認できます。しかし、企業全体の削減率を購入鋼材へ一律適用すると、対象製品との関係を説明できません。Scope3計算値とは別の調達KPIとして管理する方法があります。

ケースCでは、削減価値の透明な管理が中心です。経済産業省のグリーンスチールに関する検討資料でも市場形成や環境価値の扱いが議論されています。制度やガイドラインは更新され得るため、証明の発行時点と自社報告時点のルールを確認します。

「購入した」だけで終わらせない運用

グリーンスチール調達の価値をScope3削減へつなげるには、単発の証明書管理ではなく、調達・算定・改善の循環が必要です。

まず、重点品目を決めます。購入量、カテゴリー1に占める排出割合、顧客要求、代替可能性、仕入先との対話可能性から優先順位を付けます。鋼材全体を一度に切り替えるのではなく、対象製品・事業・顧客を定めた試行から始めると、データと運用上の課題を確認できます。

次に、調達KPIと排出KPIを分けます。グリーンスチール購入量・比率は調達行動を示し、カテゴリー1排出量・原単位は算定結果を示します。購入比率が上がっても、総購入量が増えれば総排出量は増えることがあります。二つを並べることで、採用努力と事業量の影響を説明できます。

さらに、仕入先へのフィードバックを定例化します。必要情報が不足した場合、次回更新で境界、データ年、数量対応を追加できるか相談します。自社側も、証明を受け取る窓口、確認担当、算定への反映日、使用先を決めます。担当者のメールボックスだけへ証明が残らない仕組みが必要です。

最後に、基準年の再計算方針を決めます。新しいデータで過去分を再計算するのか、方法変更として注記するのかを統一します。GHG ProtocolのScope3算定ガイダンスが示すサプライヤー固有法などを参照しつつ、自社の報告方針とデータ品質管理に合わせます。

まとめ:名称ではなく、製品・境界・帰属を確認する

グリーンスチールは、鋼材調達に伴うScope3カテゴリー1の削減へつながり得ます。ただし、「グリーンスチールを購入した」という事実だけでは、削減量や自社算定への反映方法は決まりません。

受け取った情報が製品CFP、企業全体の削減、製品へ割り当てた削減価値のどれかを分け、対象製品、数値の種類、算定境界、比較基準、製品への帰属、二重計上防止、利用目的を確認します。そのうえで、発注・納入・証憑・算定表を共通IDでひも付けます。

証明書の読み方と自社のCFP・Scope3算定を接続したい場合は、西日本鋼管のCFP事業で公開されている支援内容を確認できます。相談時には、対象鋼材、購入数量、現在の算定方法、受領済み資料、算定結果の利用先をそろえると、確認すべき境界と不足情報を切り分けやすくなります。

参考情報