COLUMN コラム
低炭素鋼材とは?グリーンスチールとの違いと発注方法
「低炭素鋼材を探してほしい」と依頼されたとき、まず確認したいのは、ここでいう「炭素」が何を指すかです。鉄鋼の材料用語としての低炭素鋼と、脱炭素調達でいう製造時の温室効果ガス排出量が少ない鋼材は、同じ意味ではありません。
材料用語の「低炭素鋼」は、鋼中の炭素含有量が比較的少ない炭素鋼を指す表現です。炭素量は強度、硬さ、延性、加工性、溶接性などと関係します。これに対し、脱炭素で問題にするのは、原材料調達や製鉄、加工、輸送等に伴って排出されるCO₂などの温室効果ガスです。
鋼に含まれる炭素量が少ないからといって、製造時のGHG排出量も自動的に少なくなるわけではありません。反対に、製造時GHGを低減したグリーンスチールであっても、用途に必要な鋼種や規格を満たすかは別に確認します。
したがって、見積依頼書へ「低炭素鋼材」とだけ書くのは不十分です。材質として何が必要か、環境価値として何を求めるか、どの資料が必要かを分けて記載します。用語の混同を防ぎ、根拠資料を読み、発注条件へ落とし込む方法を解説します。
材質条件と環境条件は別の欄に書く
鋼材を調達する際の材質条件には、用途、使用環境、規格番号、種類の記号、形状、寸法、加工、表面、検査証明書などがあります。設計図書や要求仕様に適合し、必要な品質と納期を満たすことが前提です。
環境条件には、製品一単位当たりのGHG排出量、メーカーの削減実績を反映した環境価値、必要な証書、第三者検証、対象数量などがあります。これらは鋼材の外観から判断できません。製品CFP情報、削減証書、算定・検証に関する資料で確認します。
材質条件と環境条件を一つの「低炭素」という言葉へまとめると、供給側はどちらを優先すべきか判断できません。見積依頼書では、少なくとも次の二欄を分けます。
| 欄 | 記載する内容 |
|---|---|
| 鋼材仕様 | 用途、規格、記号、形状、寸法、加工、数量、納期、品質書類 |
| 環境要件 | 利用目的、必要な環境情報、対象数量、算定境界、検証、提出時期 |
材質としての低炭素鋼を指定する場合は、曖昧な通称だけで決めず、適用規格や化学成分、機械的性質、メーカー資料を確認します。製造時GHGの少ない鋼材を求める場合は、「低炭素鋼」ではなく、必要な環境価値と資料を具体的に伝えます。
環境価値を表す資料は一種類ではない
低炭素型の鋼材を説明する資料には、役割の異なるものがあります。名称だけで優劣を決めず、何を示す資料かを見分けます。
製品CFP情報
カーボンフットプリント(CFP)は、製品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体を通したGHG排出量をCO₂換算した値です。鋼材の場合も、対象製品、機能単位、算定境界、対象期間、配分方法などを押さえます。
製品CFP値が示されていても、原材料から工場出荷までなのか、加工や輸送を含むのかで値は変わります。数値だけを抜き出さず、前提と一緒に保存します。
削減証書
鉄鋼メーカーが実施した削減の実績を、一定のルールで対象製品へ割り当て、証書として供給する場合があります。日本鉄鋼連盟のGXスチールでは、削減実績量を製品へ配賦して削減証書とともに供給するGXマスバランス方式が示されています。
買い手は、削減量だけでなく、対象製品、数量、期間、証書番号、利用条件、検証、二重計上防止の管理を点検します。削減証書は製品CFP値と同じ資料ではありません。
低CFP製品の算定資料
削減実績の範囲で製品の排出量を配分し、低CFP製品として供給する方式もあります。日本鉄鋼連盟の現行説明ではGXアロケーション方式として整理されています。この場合、提示された製品CFPの対象、単位、境界、算定方法を読み取ります。
品質・納入の証明書類
ミルシートや検査証明書、納品書は、鋼材の品質や注文との対応を確認する重要資料です。ただし、それだけで環境価値の根拠になるとは限りません。品質書類と環境書類を別々に受け取り、注文番号や対象数量で結び付けます。
必要な資料は「何に使うか」から選ぶ
環境情報を求める理由によって、必要な資料は変わります。
自社のScope 3カテゴリー1に購入鋼材の情報を使いたい場合は、自社の算定ルールに適合する製品CFP情報や削減証書が必要です。顧客へ製品CFPを回答したい場合は、自社製品の対象境界と整合する上流データが必要です。環境調達実績として購入数量を管理したい場合は、対象製品と数量を示す証書や納入記録が重要になります。
営業資料で「低炭素型鋼材を採用」と説明したい場合は、どの根拠に基づく表現か、証書やCFP情報の利用条件、対象製品・数量との対応を照合します。購入した一部の鋼材の環境価値を、別製品や全販売量へ広げて説明してはいけません。
「何を受け取れるか」から用途を後付けするのではなく、「何に使いたいか」を先に供給者へ伝えると、必要な資料を選びやすくなります。
根拠資料は6つの欄で読む

低炭素型の鋼材に関する資料を受け取ったら、次の六つを一枚の確認表へ転記します。
1. 対象
どの品種、規格、工場、ロット、注文、数量が対象かを特定します。商品シリーズ全体の説明資料と、今回購入する鋼材へ適用される証憑を区別します。
2. 単位
鋼材一トン当たり、製品一個当たり、削減量の合計など、数値の分母を確かめます。単位変換を行った場合は計算式を残します。
3. 算定境界
原料採掘、製鉄、圧延、加工、輸送、使用、廃棄のうち、どこまで含むかをそろえます。境界が違う二つのCFP値は、そのまま比較できません。
4. 対象期間
算定対象年、削減実績の発生期間、証書の発行日、利用できる期間を見比べます。過去に受け取った資料を次回注文へ自動的に適用しません。
5. 反映方式
製品ごとの実データによるCFPなのか、組織内の削減実績を配賦したのか、証書として提供されるのかを区別します。方式によって社内での使い方と説明文が変わります。
6. 算定・検証
参照したガイドラインや規格、その版、算定主体、第三者検証の主体と範囲を把握します。「検証済み」という表示だけでなく、どの数値や管理プロセスが対象かを資料で見ます。
この六欄が埋まらない場合は、分からない項目を供給者へ質問します。空欄を自社の推測で補わないことが大切です。
根拠確認票は「資料名」と「判断」を分ける
受け取った資料を社内へ回覧するときは、ファイルを保存するだけでなく、根拠確認票を一枚作ります。確認票には、資料に書かれている事実と、自社の発注・算定へ使えるかという判断を別々に記載します。
たとえば「製品CFP資料あり」は事実ですが、「今回の顧客回答に使用できる」は自社の判断です。資料の対象境界が顧客指定と一致しなければ、値があってもそのまま使えません。反対に、顧客が購入実績と削減証書を求めている場合、製品CFPの詳細値がなくても目的を満たす可能性があります。
確認票には次の欄を設けます。
- 受領した資料名、版、発行日、発行者
- 対象品種、規格、数量、注文番号
- 単位、境界、対象期間、方式、検証
- 当社での利用目的
- 要件への適合、一部適合、確認待ち、不適合
- 追加で質問する内容と回答期限
- 確認者、承認者、確認日
「確認待ち」を不適合やゼロと同じ扱いにしない点も見落とせません。見積比較の締切までに回答が得られない場合は、条件付き候補として残すのか、今回の発注対象から外すのかを決めます。判断理由を残せば、次回発注で同じ確認を最初からやり直さずに済みます。ただし、資料やガイドラインの版、商品条件は変わる可能性があるため、前回判断をそのまま流用せず現行情報を再確認します。
数値を比較できる条件
複数の候補で環境価値を比べる場合は、次の条件がそろっているかを先に確認します。
- 対象となる製品や品種が同等
- 数値の単位が同じ
- 算定境界が同じ
- 対象年度または期間が比較可能
- 配分や推計の方法が説明されている
- 製品CFPと削減量を同じ指標として扱っていない
条件がそろわない場合は、数値の小さい方を採用するのではなく、供給者へ境界を合わせた情報を依頼するか、比較不能として別の評価にします。
また、環境数値が低くても、用途に必要な品質や安定供給を満たさなければ採用できません。環境価値の比較表とは別に、規格、寸法、加工、数量、納期、価格、品質書類の比較表を作り、両方を満たす候補を選びます。
見積依頼書へ書く内容
「グリーンスチール希望」「低炭素鋼材希望」だけでは、必要な提案が返ってこない場合があります。次のように、鋼材仕様と環境要件を分けて記載します。
鋼材仕様
- 用途と使用環境
- 適用規格と種類の記号
- 形状、寸法、板厚、長さ
- 加工、表面、端部、公差
- 必要数量、納入場所、希望時期
- 必要な検査証明書
環境要件
- 利用目的:Scope 3、製品CFP、顧客提出、環境調達等
- 希望する情報:製品CFP、削減証書、算定・検証資料等
- 対象とする数量
- 希望する算定境界や単位
- 第三者検証の要否
- 見積時または納入時など、資料の提出時期
どの方式が適切か分からない場合は、「当社製品の上流排出量の把握に使いたい。利用可能な方式と必要資料を提案してほしい」と目的を伝えます。方式名を誤って指定するより、用途と必要な説明レベルを共有する方が適切な候補へつながります。
見積・納入・社内利用の3時点で照合する
見積時
候補の鋼材仕様、提供可能な環境資料、対象数量、発行時期、価格、納期を確認します。環境資料が後日発行になる場合は、予定日と前提を記録します。
納入時
発注番号、納品書、品種、数量、品質書類、環境証憑を照合します。見積時と方式や対象が変わっていないか確認します。証書番号や対象数量を社内台帳へ登録します。
社内利用時
Scope 3算定、製品CFP、顧客回答、営業資料など、どこへ何数量分を使ったかを記録します。一部だけ使用した場合は残量を管理し、複数部署が同じ証憑を重複利用しないよう責任部署を決めます。
この三時点の記録を一つの注文IDで結び付けると、後から「どの鋼材の環境価値を、どの説明に使ったか」を追跡できます。
社外へ表示する言葉は証憑の範囲を超えない
「CO₂ゼロ」「環境負荷がない」「完全に脱炭素」といった強い表現は、根拠資料が示す範囲を超えるおそれがあります。製品CFPが低いこと、削減実績が配賦されていること、非化石電力の属性を使っていることは、それぞれ異なる主張です。
社外へ説明する前に、次を確認します。
- 表現の対象が、購入した品種・数量・期間と一致しているか
- 製品CFPと削減量を混同していないか
- 比較表現に基準品、基準年、境界が記載されているか
- 証書や検証資料の利用条件に合っているか
- 自社製品へ組み込んだ場合の説明範囲が妥当か
営業、環境、法務・品質など、必要な担当が表現を確認し、使用した根拠資料と承認日を保存します。
よくある三つの相談例
材質として低炭素鋼を探している
必要な機械的性質や加工性から、適用規格、鋼種、化学成分、形状、寸法を整理します。製造時GHGの低減も求める場合は、別の環境要件として追加します。
顧客から低炭素型鋼材の採用を求められた
顧客が必要としているのが製品CFP、削減証書、購入実績のどれかを確認します。指定様式、算定境界、対象数量、提出期限を供給者へ伝えます。
まず採用可能な選択肢を知りたい
用途、規格、数量、納期、現在の調達条件を提示し、利用可能な環境価値の方式と資料、価格・供給条件を提案してもらいます。環境価値だけを先に決めず、現場条件と合わせて検討します。
見積依頼で分けて伝える条件
- 用途と使用環境
- 希望する鋼種、規格、形状、寸法
- 必要数量と希望納期
- 加工、表面、端部、品質書類
- 「低炭素鋼材」を求める理由
- 社内算定や顧客提出での利用目的
- 指定された様式、単位、境界、期限
- 品質、コスト、納期のうち変更できない条件
すべてを決めてから相談する必要はありません。未決定の項目を明記し、何を判断するための情報が必要かを伝えると、提案の前提がそろいます。
まとめ:「低炭素」の意味と必要資料を発注書へ書く
低炭素鋼材という言葉は、鋼中の炭素含有量が比較的少ない材質と、製造時GHGを低減した鋼材の両方を想起させます。発注では、材質条件と環境条件を別の欄に書き、どちらを求めているか明確にします。
環境価値の資料は、対象、単位、算定境界、期間、反映方式、算定・検証の六欄で確認します。比較する場合は前提をそろえ、見積・納入・社内利用の三時点で注文、数量、証憑を結び付けます。
材質条件と環境情報を切り分けて調達可否を確認する場合は、西日本鋼管の鉄鋼販売事業で対応範囲を確認できます。