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鉄鋼のマスバランス方式とは?グリーンスチールとの関係

2026.06.22
グリーンスチール・GX

鉄鋼分野のマスバランス方式を調べると、「削減実績を製品へ割り当てる」「証書付きの鋼材」「Scope 3に使える」といった説明が出てきます。一方で、「納入された鋼材そのものは、通常材と何が違うのか」「証書の数字を製品CFPとして使えるのか」「環境価値が二重に使われないのか」と疑問を持つ方も多いでしょう。

日本鉄鋼連盟の現行説明では、GXマスバランス方式は、鉄鋼メーカーが組織内で生み出した温室効果ガス(GHG)の削減実績量を管理し、その範囲内で任意の鉄鋼製品へ配賦し、削減証書とともに供給する方法です。購入者は、その削減証書を組織レベルのScope 3カテゴリー1や製品レベルで、上流排出量の削減を主張するために利用できると案内されています。

ただし、「削減証書が付いたこと」と「その鋼材の製造ロットが物理的に別の低排出工程だけで造られたこと」は同じ意味ではありません。また、証書を受け取れば、あらゆる開示制度や顧客提出で無条件に使えるわけでもありません。調達側は、物理的な鋼材、削減実績、製品への配賦、削減証書を分けて理解し、証書の対象と発注品を追跡できるように管理する必要があります。

GXスチール全体の二方式を比較するのではなく、GXマスバランス方式だけを深掘りします。削減プロジェクトから需要家での利用までの流れ、証書で確認したい項目、鋼材条件と環境情報を一つの調達記録へまとめる方法を、初心者向けに整理します。

この記事の要点 GXマスバランス方式は、①鉄鋼メーカーの削減プロジェクト、②削減実績の算定・検証、③組織内台帳での管理、④対象製品への配賦、⑤削減証書と鋼材の供給を一続きで管理する仕組みです。購入者は、証書の対象・数量・期間・検証・使用条件と、鋼種・規格・寸法・加工・納期を別々に確認し、最後に同じ発注記録へ結び付けます。

鉄鋼のGXマスバランス方式とは

日本鉄鋼連盟は、GXスチールを、鉄鋼メーカーのGHG削減効果を特定の鋼材に反映したものと説明しています。2025年10月には、従来の「グリーンスチールに関するガイドライン」を「GXスチールガイドライン」へ改称し、GXマスバランス方式に加えてGXアロケーション方式を導入しました。2026年7月の調査時点で、公式ページにはGXスチールガイドライン v4.1が掲載されています。

二方式のうちGXマスバランス方式は、組織内の削減実績量を任意の製品へマスバランス方式で配賦し、削減証書とともに供給する方法です。ここで中心になるのは「削減証書」です。GXアロケーション方式のように、削減価値を製品CFPへ反映した低CFP製品を供給する方法とは、購入者が受け取る情報と利用の考え方が異なります。

マスバランスという言葉は、原材料の混合管理など別分野でも使われます。鉄鋼のGXマスバランス方式では、鉄鋼メーカーが実現した削減実績を組織内で数量管理し、その実績を超えない範囲で対象製品へ割り当てます。個々の鋼材を外観で見分けるのではなく、台帳と証書によって、どの削減価値がどの製品・数量へ割り当てられたかを追跡します。

この仕組みは、鉄鋼製造の脱炭素化に時間と大規模投資が必要な移行期に、実際の削減活動へ経済的な価値を与え、需要家の調達へつなげる考え方です。一方、物理的な排出量と証書上の削減価値の関係が分かりにくいと、過剰な環境主張や誤解を招きかねません。そのため、算定、検証、配賦、証書、二重計上防止の透明性が欠かせません。

物理製品・削減実績・配賦・証書の4要素

GXマスバランス方式を理解するときは、四つの要素を同じものとして扱わないことが大切です。

要素何を表すか調達側が確認すること
物理的な鋼材実際に納入され、加工・施工・製造に使う鉄鋼製品鋼種、規格、寸法、品質、加工、数量、納期、納入条件
削減実績鉄鋼メーカーが組織内の削減活動によって生み出したGHG削減量対象組織、プロジェクト、基準、算定期間、検証
配賦管理された削減実績の一部を、対象製品・数量へ割り当てる処理配賦量、対象製品、対象期間、残量管理、二重計上防止
削減証書対象製品に割り当てられた削減価値を購入者へ伝える証憑発行者、識別情報、対象、数量、削減量、単位、使用条件

物理的な鋼材は、通常の鋼材調達と同様に、用途に必要な品質と仕様を満たす必要があります。削減実績は、鉄鋼メーカーの削減活動から生まれる環境価値です。配賦は、その価値を対象製品へ結び付ける管理行為です。削減証書は、購入者がその結び付きを確認し、定められた用途で利用するための証拠になります。

したがって、削減証書に「削減量」が記載されていても、その数値をそのまま鋼材の製品CFPとして扱えるとは限りません。製品CFPは、定めた算定範囲と基準単位で製品のGHG排出量を算定した値です。削減証書は、組織内で生み出した削減実績を製品へ配賦したことを示します。両者は関連しますが、意味、単位、利用方法を確認せず同じ欄へ入力しないようにします。

削減プロジェクトから需要家の利用までの5段階

1.鉄鋼メーカーが削減活動を実施する

出発点は、鉄鋼メーカーによるGHG削減活動です。日本鉄鋼連盟の公式ページでは、「GX推進のためのグリーン鉄」について、企業単位での追加的な直接的排出削減行動による環境負荷低減と、その行動に伴うコストを重視する考え方が示されています。

購入者が確認したいのは、単に外部の環境価値を付けたのか、鉄鋼メーカー自身のどのような削減活動に基づくのかという点です。個別証書ですべての技術情報が開示されるとは限りませんが、供給者のガイドライン、商品説明、検証報告の範囲を確認します。

2.削減実績量を算定し、検証する

削減活動によってどれだけGHG排出が減ったかを、基準と比較して算定します。日本鉄鋼連盟は、GHG排出量や削減実績量の算定で各種ISO規格に準拠または参照し、算定内容について第三者検証を受けることで透明性を確保すると説明しています。

「第三者検証あり」と書かれている場合も、どこまでが検証対象かを確認します。削減プロジェクトの方法、基準となる排出量、実績量、組織境界、対象期間、配賦管理など、検証の対象と範囲は同じとは限りません。検証機関名だけでなく、検証対象、保証水準、検証日、参照資料を把握します。

3.削減実績を組織内の台帳で管理する

算定・検証された削減実績量は、組織内で管理されます。この管理では、発生した削減量、配賦した量、残っている量を対応させ、実績を超えて配賦しないことが基本になります。

この台帳は、マスバランス方式の信頼性を支える重要な部分です。物理的な鋼材だけを見ても、削減価値の配賦状況は分かりません。対象期間、対象組織、使用済み・未使用の区分、取消しや訂正の履歴を管理し、同じ削減価値が複数の製品や購入者へ重複して使われないようにします。

4.対象製品・数量へ削減実績を配賦する

管理された削減実績の一部を、販売する特定の鉄鋼製品へ割り当てます。配賦先は、鋼種、製品、重量、販売期間、注文などの単位で識別されます。購入者は、発注する鋼材の数量と、証書で対象となる数量・削減量がどのように対応するかを確認します。

環境価値の対象数量と実際の購入数量が一致しない場合は、対象外の部分、残量、分納時の扱いを明確にします。発注が重量単位で、社内管理が本数や部品数の場合は、換算の根拠も残します。複数の注文を一枚の証書で管理するのか、注文ごとに証書が発行されるのかも実務上の確認点です。

5.鋼材と削減証書を供給し、需要家が利用する

対象となる鋼材と削減証書が需要家へ供給されます。需要家は、証書を保管するだけでなく、見積書、注文書、納品書、検査証明書、証書を対応付けます。そのうえで、自社のScope 3算定、製品レベルの削減説明、顧客提出、調達実績のどこで使うかを記録します。

GXマスバランス方式を削減活動から需要家の利用まで5段階で示した図
図:削減実績の発生・検証・台帳管理・配賦・証書利用をつなぐ5段階

この五段階のどこか一つだけを確認しても、全体の信頼性は判断できません。削減活動があっても配賦管理が不明確なら、どの製品へ価値が付いたか追跡できません。証書があっても、発注品や数量との対応が分からなければ、自社利用の根拠が弱くなります。購入者側も、受領後の記録と使用量管理に責任を持つ必要があります。

削減証書で発注前に確認したい項目

証書の様式や必須項目は、供給者の商品体系や適用ガイドラインによって異なることがあります。次の項目は、すべてが同じ形式で記載されると断定するものではなく、発注前に確認しておきたい事項です。

確認項目確認する理由
発行者・供給者誰が削減実績を算定・管理し、誰が証書を発行するかを把握する
適用方式・ガイドライン版GXマスバランス方式であること、参照した版を確認する
対象組織・対象期間どの組織境界と期間で生じた削減実績かを把握する
対象製品・数量発注する鋼材、重量、納入分と証書を対応させる
配賦された削減量・単位値の意味と、重量当たりか総量かなどの単位を理解する
算定・検証情報基準、算定方法、検証対象、検証日を確認する
証書番号・識別情報発注・納品・社内利用の追跡と重複利用防止に使う
利用条件・有効期間Scope 3、製品レベル、顧客提出等で使う条件を確認する
訂正・取消しの扱い数量変更や記載誤りがあった場合の履歴を追跡する

発注前に証書のサンプルや記載予定項目を確認できると、納入後の不足を防ぎやすくなります。顧客から指定様式や第三者検証の条件を求められている場合は、見積依頼時に共有します。

証書を受け取った後は、ファイル名だけで管理せず、注文番号、納品番号、製品、数量、使用した報告年度などを検索できる台帳へ登録します。担当者が異動しても、どの証書がどの調達に対応するかを追跡できる状態にします。

Scope 3・製品レベルで使う前の確認

日本鉄鋼連盟の公式ページでは、GXマスバランス方式を適用したGXスチールの購入者は、削減証書を、組織レベルのScope 3カテゴリー1と製品レベルで、上流排出量の削減を主張するために利用できると案内されています。

ただし、この説明は、購入者のあらゆる算定・開示・顧客提出で、自動的に同じ処理が認められることを保証するものではありません。実際に使う前に、次を確認します。

  • 自社が採用するGHG算定方針と、マーケットベース・証書の扱い
  • 報告対象年度と、証書・発注・納入・使用の対象期間
  • Scope 3カテゴリー1で使用する活動量、排出係数、削減証書の処理
  • 自社製品のCFP算定ルールと、削減証書を反映できる範囲
  • 顧客・調達基準・開示制度が指定する証憑と検証条件
  • 第三者保証を受ける場合の証拠、台帳、承認手続
  • 対外表現で使用できる文言と、併記すべき条件

現行の日本鉄鋼連盟ページも、SBTiやGHGプロトコルでChain of Custody手法を含む算定ルールの議論が進んでいることに触れています。ルールは今後更新される可能性があるため、一度決めた社内処理を将来も自動継続せず、年度や提出先が変わる時点で再確認します。

対外説明では、「CO₂ゼロの鋼材」「製造時の排出がゼロ」といった、証書の範囲を超える表現を避けます。「GXマスバランス方式に基づく削減証書が付された鋼材を調達した」など、方式、対象、根拠が分かる表現を使い、必要に応じて算定範囲や利用条件を併記します。

マスバランス方式で誤解しやすいこと

証書付き鋼材は、外観や品質が別物である

GXマスバランス方式が表すのは、削減実績の配賦と証書による環境価値です。鋼材の機械的性質や寸法規格は、通常の製品仕様で確認します。証書の有無だけで品質が上がる、あるいは用途適合が決まるわけではありません。

証書の削減量は、そのまま製品CFPである

削減証書の値と製品CFPは、意味が異なります。製品CFPが必要な場合は、基準単位、算定範囲、対象工程、使用データ、配分方法、検証を確認します。GXアロケーション方式との違いも踏まえ、必要なものが削減証書か製品CFPかを先に決めます。

削減価値は、購入量に関係なく使える

証書は、対象製品、数量、削減量、期間と結び付いています。購入量や対象期間を超えて主張しないよう、使用量と残量を管理します。一枚の証書を複数の部署・製品・顧客提出で使う場合は、重複利用にならない管理方法を決めます。

「第三者検証済み」なら、すべてが検証されている

検証には範囲があります。削減プロジェクト、削減実績、配賦管理、証書、需要家の利用方法のすべてが同じ検証業務に含まれるとは限りません。検証意見書や説明資料で、対象と対象外を確認します。

環境担当だけで導入を決められる

証書の使用目的が明確でも、必要な鋼種、規格、寸法、加工、数量、納期、価格に合わなければ実案件へ採用できません。環境担当、購買、設計、生産、営業、品質保証が同じ条件表を見て判断します。

鋼材条件と証書条件を一つの調達記録へまとめる

GXマスバランス方式の鋼材を調達するときは、鋼材条件と証書条件を別々に確認し、最後に一つの記録へ結び付けます。

鋼材条件には、用途、鋼種、JIS等の規格、種類の記号、形状、寸法、表面、端部、加工、検査、数量、納期、納入場所、荷姿を記録します。証書条件には、方式、ガイドライン版、対象製品・数量、削減量・単位、対象期間、検証、証書番号、利用条件を記録します。社内利用記録には、どのScope 3集計、製品CFP、顧客提出、営業資料で使用したかを残します。

この三層を注文番号や案件番号で結べば、後から次の問いに答えられます。

  • どの鋼材の購入に、どの削減証書が対応しているか
  • 発注数量のうち、環境価値の対象はどこまでか
  • 証書をどの年度・製品・顧客提出で使用したか
  • 同じ削減価値を別の用途で重複使用していないか
  • 数量変更、返品、分納、証書訂正があったとき、どこを更新したか

見積比較でも、通常材とGXマスバランス方式の鋼材を価格だけで比べないようにします。対象数量、証書の内容、検証、社内処理、顧客価値まで含めて比較します。環境価値の対象が一部だけの場合は、通常材部分と証書対象部分を分けて管理します。

導入初期は、小さな対象範囲で運用を試し、注文から証書受領、社内台帳、顧客提出まで追跡できるかを確認する方法もあります。証書の記載、社内承認、利用文言に不足が見つかったら、次の発注条件へ反映します。

見積条件に含める鋼材・証書情報

GXマスバランス方式の見積では、鋼材としての条件と、環境価値・証書としての条件を別欄にします。価格差を比較する前に、どこまでが同じ条件で、どこからが方式固有の費用かを分けます。

GXマスバランス方式の鋼材を相談するときは、専門用語をすべて理解している必要はありません。次の情報を分かる範囲で整理すると、鋼材条件と環境情報の確認を同時に進めやすくなります。

  • 使用用途、最終製品、納入先
  • 必要な鋼種、規格、寸法、表面、加工
  • 数量、希望納期、納入場所、分納の要否
  • GXスチールを検討する目的
  • Scope 3、製品CFP、顧客提案など証書の利用先
  • 顧客や社内から指定されているガイドライン、様式、検証条件
  • 必要な証書の名義、対象期間、管理単位
  • 比較する通常材・低炭素材の条件
  • 社内の購買、環境、品質保証の確認担当

GXマスバランス方式は、削減実績を需要へつなぐための管理の仕組みです。価値を正しく活用するには、削減活動、算定・検証、配賦、証書、需要家の使用を一続きで追跡し、鋼材の品質・納入条件と混同しないことが欠かせません。

見積書、注文書、証書、社内利用記録には同じ案件番号を付けます。鋼材の規格・加工・納期と、削減価値の対象数量・利用先を後から照合できる状態にしておくことが重要です。

参考情報